日本医師会 赤ひげ大賞

小冊子

第2回

講演
脚本家 倉本 聰(NHKドラマ「赤ひげ」の脚本を執筆)

北海道富良野市に、もうかれこれ30数年住んでいますが、最初に移ってきたとき、まちを歩いて病院を探しました。永住するつもりだったので、自分はどういう病院で死ぬのだろうか、という思いで病院を見て歩きました。

当時、富良野には、協会病院という病院が一つだけありました。そして、富良野から車で30分くらいの幾寅(南富良野町)に、今回受賞された下田憲先生がおられて、みんなから頼りにされているというお話をうかがっておりました。

北海道は、何せ広いですから、病院に行くのが一日仕事になります。農家の方なんてはるばる遠いところからやってきて、長い時間待たされた末、いろいろ検査されて、血液を採られて、レントゲンをとられて、そして、お薬が出て一日が終わりという・・・。何か非常に人間味がないような感じがします。

お年寄りの方々が、こんなふうに訴えているのを聞きました。「どうして、最近のお医者さんは触ってくれないのだろう」。私もそろそろ80歳なのですが、まったくその通りだと思います。

山本周五郎さんの原作をもとに、ドラマ「赤ひげ」(1972年、NHK)のドラマを書くことになったとき、「赤ひげ」の定義とは、一体何だろうと考えました。当時、私の主治医で、「赤ひげ」と呼ばれていた先生が常々こう言っていました。「医者は病気を診ることよりも、患者を診ることが大事なんだ」。その通りだな、という気がしました。

赤ひげの舞台である小石川養生所には、若い医師がいます。彼は理屈で取り組もうとします。ところが赤ひげは人情的なんです。この対比が赤ひげというドラマの根本じゃないか、と思っています。いくら科学が進歩しても、感情の問題は変わりません。患者に触って慰めてくれるということが大事だと思います。科学的というより生理的に考えて人と接してくださるお医者さんがいっぱいいてほしいと思います。

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