掲載事例

冊子

第9回

受賞者紹介

24時間365日×30年以上 救急対応に挑む

慈泉堂病院 理事長

鈴木 直文

(茨城県)

酒巻俊介撮影

恩師の言葉を胸に日夜診療に励む

東舘診療所でも診察する鈴木医師(福島県白川群)

茨城県内で最も高齢化が進む山間過疎地域の大子町。1人暮らしの高齢者が1千人を超えるこの町で、慈泉堂病院は30年以上にわたり、24時間365日の救急医療体制を敷いている。

「地域の特殊性を知り、基幹病院との連携を取れ。疾病とは患者の中に問題があり、患者の中に解答がある。解らなければ何度でも患者を診ろ。時間外の患者が本当の患者、時間外の患者を診ずして誰を診る」。大学病院時代の恩師の言葉を胸に刻み、同院理事長の鈴木直文医師は日夜診療に励む。

自宅は病院の敷地内。急患に備えて夕方以降の予定は立てない。傍らには常に緑のキャップ(帽子)にマスクと白衣。いつ呼び出されても対応できるよう備える鈴木医師は開業してからの32年間を「本当に仕事をしていたことしか思い出せない」と振り返る。赤ひげ大賞の受賞にも、「もう限界まで頑張っているつもりだったが、賞をいただいたことで、もっと頑張らなければいけなくなってしまった。とても大変なことだなあ」と笑う。

ゆかりのない町で開業

高齢者の訪問診療もかかさない

鈴木医師は、大子町の近くにある人口約8千人の福島県塙町に生まれた。代々医者の家系で、鈴木医師は「田舎だったので基幹産業はなく、身近で見られたのは、父の医者の仕事くらいだった」と語る。医者以外の選択肢が目に映らないまま、鈴木少年は父の背中を追いかけた。

聖マリアンナ医科大学大学院を修了し、約10年の同大付属病院勤務を経て、大子町で開業した。ゆかりのない町だったが、父の強い希望で開業することになり、鈴木医師の心中は「大学病院で10年ぽっち働いただけで、人様の診療ができるのか」と不安を抱えていた。それでも患者第一を胸に、24時間365日、若さの力でがむしゃらに働いた。気づくと人生で一番長い時間を過ごした町になっていた。

年を追うごとに、診療する患者の高齢化は進む。長年見守った患者に見られるのは、毎日の畑仕事で分厚く硬くなった両手、洗っても落ちないほど土が入り込んだ爪や手のしわ、大きく曲がった腰……。こうした高齢患者に、純粋さや素朴さ、頼もしさを感じる。「田舎生活の一部を医療を通して支えたい」。今ではそんな風に思いながら鈴木医師は診療に臨んでいる。

「神様、仏様、鈴木先生」

自宅で愛犬と

常に患者第一の鈴木医師を象徴する出来事が、一昨年10月に台風19号が上陸した際の話だ。大子町は、浸水による死者や、町役場の水没など県内でも極めて甚大な被害を受けた。慈泉堂病院も1階部分が浸水して機能停止。他の病院も同様の被害を受け、町内医療機関はまひしてしまった。

「どんな時でも患者はいる」。災害の中、その一念から鈴木医師は即座に病院再開を目指した。モップ片手に昼夜を問わず率先して院内のヘドロをかきだし、3日後には外来・救急患者の24時間体制受け入れを再開。当時の迅速な対応は今でも「開いててよかった慈泉堂病院」「神様、仏様、鈴木先生」という言葉とともに関係者の間で語り草になっている。

「地域の病院が動いていれば患者さんは安心できる。どんな時でも通常通りであることが重要だ」。鈴木医師は力を込める。

熱い志で患者と向き合う。患者が一番の教科書

なぜそこまで患者第一の姿勢を貫けるのか。鈴木医師は「昔は医者としての使命感。今では患者への思いやりで体が動いている」と淡々と語る。全てにおいて患者を優先するのは医師として当たり前のことだと言わんばかりだ。慈泉堂病院で働くスタッフにも、患者への思いやりを徹底するよう指導しており、今では鈴木医師不在でも、率先して救急対応に臨んでいるという。患者を思う熱い志は次の世代にも脈々と受け継がれているようだ。

病気の死者ゼロを目指して

山あいの過疎地にも通う
慈泉堂病院(茨城県久慈郡大子町)

現在は新型コロナウイルスの流行という未曾有の災害に直面している。鈴木医師は「新型コロナウイルス感染症への対策は“点”ではダメ。県医師会と協力して、県全体の“面”で対処しなければならない」と指摘。その中で、地域医療にできることを模索しているという。

普段から一人一人の患者とつながっている地域の病院だからこそ、新型コロナへの正しい対処といった啓発がしやすい。大子町は小さな町で、新型コロナによる風評被害は大きくなりがちだ。正しい知識を患者に説いて、患者さんたちが少しでも安心して暮らせるように努めている。

新型コロナの先を見据えた今後の夢を聞くと、「住民と健康増進について互いにやり取りができる講習会を開きたい」と意気込む。町を歩くと消防署に「火災ゼロ」、警察署では「死亡事故ゼロ」という掲示が目に入る。

「困難だろうし、恥ずかしくてとても大きな声では言えないが、せめて1年だけでも病気の死者ゼロを目指したい」と鈴木医師。地域の集会所に住民を集めて、健康習慣に関する講習会を開く。病気を予防する正しい知識を伝えるととともに、住民や患者からも意見を聞いて自身も学ぶ。「患者が一番の教科書。お互いに意見を出し合って健康な日々を作っていきたい」。67歳にしてまだまだ志は高い。病死ゼロという大きな夢に向かい、鈴木医師はこれからも走り続ける。

患者との語らいも大事な診察だ

30年以上仕事だけに没頭してきた鈴木医師に、最近になって小さな趣味が見つかった。「子供のころの小さな夢というか、プラモデルを作ってみたいと思って」と恥ずかしそうに笑う。生活の全てを仕事にささげ、趣味を見つける暇すらなかった鉄人。数十個のプラモデルを“爆買い”したはいいが、いまだにほとんど手付かずのままだという。大子の赤ひげ先生の多忙な日々はまだまだ終わらない。(永井大輔)

鈴木 直文 すずき・なおぶみ
慈泉堂病院理事長。昭和28年、福島県塙町生まれ。67歳。聖マリアンナ医科大学大学院を修了し、同大付属病院の勤務を経て、平成元年に大子町に慈泉堂病院を開業。以来32年にわたり、24時間365日、地域医療の窓口として、患者を受け入れている。